点検整備記録簿はいらない?
「点検整備記録簿は作らなくてもいいのではないか」という話を見かけることがあります。実際のところ法令はどうなっているのか、条文と国土交通省の資料で確認しました。
結論
作らなくても罰則はありません。ただし、車検のときに「記載なし」が記録されます。
そして、よく言われる「不具合を書くと車検に落ちる」は誤りです。順に見ていきます。
1. 罰則はありません
道路運送車両法の罰則は第106条から第113条にまとまっていますが、そのどれも、定期点検整備を定めた第48条と、点検整備記録簿を定めた第49条を対象にしていません。
つまり、
- 定期点検を実施しなかったこと
- 記録簿を備え置かなかったこと
- 記録簿に記載しなかったこと
これらに対する直接の罰則規定は、道路運送車両法にはありません。自家用でも事業用でも同じです。
2. ただし、罰則につながる経路はあります
罰則がないことと、点検整備が制度上どうでもいいことは別です。次の3つは罰則があります。
| 内容 | 根拠 | 罰則 |
|---|---|---|
| 整備命令・指示に従わない | 法第54条第1項 | 50万円以下の罰金 |
| 使用停止処分に反して運行した | 法第54条第2項 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 整備管理者の選任義務違反(事業用等) | 法第50条第1項 | 30万円以下の罰金 |
さらに法第54条第4項は、保安基準に適合しなくなった原因が摩耗や劣化で、かつ定期点検が実施されていなかったと認めるときは、その部分の点検・整備を勧告できると定めています。
点検を怠ったこと自体は罰せられませんが、その結果として整備命令が出て、それに従わなければ罰則がある、という構造になっています。
3. 事業用自動車は行政処分の対象です
自家用と事業用で大きく違うのがここです。
事業用自動車には「自動車運送事業者の法令違反に対する行政処分等の基準」があり、定期点検整備の未実施、記録簿の記載義務違反、記録簿を保存していないこと、そして記録の改ざん・不実記載が、それぞれ行政処分の対象として挙げられています。処分の内容は車両の使用停止です。
刑事罰ではありませんが、事業者にとっては車両が止まることのほうが重い場合もあります。
4. 車検に記録簿は必要か
法令上は、継続検査(車検)を受けるための要件になっていません。
継続検査を定めた道路運送車両法第62条にも、その手続を定めた施行規則第37条の2にも、点検整備記録簿は出てきません。第62条が求めているのは、自動車を提示することと自動車検査証を提出することです。
実務では提示を求められますが、それは行政上のお願いという位置づけです。
- 東北運輸局のユーザー車検の案内は、提出書類として点検整備記録簿を挙げつつ、「定期点検未実施の場合は不要」と書いています
- 軽自動車検査協会は、「定期点検整備の実施状況を確認するため、直近で実施した定期点検整備の結果を記載した点検整備記録簿のご提示をお願いしております」という表現です
記録簿がなくても、継続検査そのものは受けられます。ユーザー車検でも同じです。
5. 「前検査(後整備)」は認められています
定期点検を車検の前にやるか後にやるかは、使用者が選べます。国土交通省が明文で述べています。
この定期点検整備の実施時期は、車検(継続検査)前又は車検後に行うかは、自動車ユーザーの選択に委ねられている
車検前に定期点検整備を行わず、車検後に行うことを前検査(後整備)と呼びます。法第48条は点検の周期を定めているだけで、検査との前後関係は定めていないためです。
ただし、後整備を選んでも点検の義務そのものは消えません。前検査で受検した使用者には、国土交通省から定期点検整備の実施を促すはがきが送られます。
6. 提示しないと「記録が残ります」
平成26年から、車検のときの点検整備の実施状況が記録されるようになりました。
記録される内容は、「点検整備記録簿記載あり」か「点検整備記録簿記載なし」の2区分だけです。以前は自動車検査証の備考欄に記載されていましたが、車検証の電子化後はICタグ内に記録されます。
あわせて、検査標章(フロントガラスに貼るステッカー)の裏面にも記載が入ります。軽自動車では、令和6年1月から法定点検未実施の車に限り「法定点検未実施(車検時)」と記載されます。
つまり、記録簿を出さないことによる不利益は、罰則ではなく記録が残ることと、次に車を売買するときなどにそれが見えることです。
7. 「不具合を書くと車検に落ちる」は誤りです
ここが一番の誤解だと思われます。
継続検査は現車の検査です。その車が保安基準に適合しているかどうかで合否が決まります。記録簿に何が書いてあるかで合否が決まる仕組みは、制度のどこにもありません。
前述のとおり、記録されるのは「記載あり」か「記載なし」かの2区分だけで、中身の良し悪しは記録されません。自動車技術総合機構の審査事務規程でも、記録簿の提示を求めるのは視認等で判定が困難な場合に限られています。
したがって、
- 不具合を正直に書いても、検査で不利になることはありません
- 事実と異なる記載をしても、検査で有利になることはありません
事実と異なる記載には、得がありません。事業用自動車では、記録の改ざんや不実記載そのものが行政処分の対象です。
なお、点検して異状がなかった項目に「レ」を、装置が付いていない項目に「/」を、点検基準が省略を認めている項目に「P」を書くのは、事実と異なる記載ではありません。法令に沿った正確な記載です。記号の使い分けは記入記号の意味と使い分けで説明しています。
では、何のために作るのか
罰則がないなら作らなくていい、という話ではありません。点検整備記録簿は、その自動車がどう点検され、どこを整備してきたかの履歴です。
- 前回どこを整備したかが分かるので、次の点検の判断材料になる
- 中古車として売買するときに、整備の履歴が残っている車は状態を説明できる
- 紛失しても再発行される性質のものではない
保存期間は、1年ごとに点検する自家用の乗用車や軽自動車などで2年、6か月・3か月ごとに点検するレンタカーや事業用の車などで1年です。詳しくは点検整備記録簿の保存期間で説明しています。
まとめ
- 定期点検を実施しないこと、記録簿を作らないことに対する直接の罰則はない
- ただし整備命令に従わない、使用停止処分に反して運行するといった場合には罰則がある
- 事業用自動車は行政処分の対象。記録の改ざん・不実記載も対象
- 車検を受けるのに記録簿は法令上の要件ではない。提示は行政上のお願い
- 前検査(後整備)は国土交通省が認めている。ただし点検の義務は消えない
- 提示しないと「点検整備記録簿記載なし」が記録され、検査標章の裏面にも残る
- 「不具合を書くと車検に落ちる」は誤り。記録されるのは記載あり/なしの2区分だけで、中身は合否に影響しない
記録簿を作る
当サイトの点検整備記録簿 作成ツールは、車両の条件を選ぶと「/」を付けるべき項目と「P」を使える項目を自動で判定します。入力内容はブラウザの外に出ません。
関連する解説
根拠
- 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第48条・第49条・第54条・第62条
- 道路運送車両法施行規則(昭和26年運輸省令第74号)第37条の2
- 自動車点検基準(昭和26年運輸省令第70号)第4条